問題解決のための読書ログ

読書でいろいろ学んだり問題解決していきます。

火星の人類学者--脳神経科医と7人の奇妙な患者

どんな本か

神経科医であるオリバーとさまざまな障害を持つ7人の患者の話

従来...というか患者の外面である症状だけでなく、患者の内面に飛び込んで病気だけではなく患者自身を理解しようとするオリバーが様々な患者について考察している。

 

なぜ読んだか

脳について興味があったが具体的にどこからはいるか決めていなかったのでとりあえず、小説本をセレクト。

興味がある部分を勉強出来たらいいと思う。

 

内容

色盲の画家

後天性の全色盲を負ってしまった画家、I氏の話

色盲は基本的には錐体という網膜の視細胞の異常により起こる。

話の中で白黒といったモノクロが好ましく思えるのはそれが他の色と比較できるからで白黒のみの世界ではもはや好ましさなどないと語っていたのが印象的だった。

ただその中でも白黒での世界を絵に落とし込むことが生きがいとなっていて芸術家として力強さを感じさせる。

 

大脳のV1という部位で光の波長を感知し、V4に情報を送る。

V4部分で波長を処理して色を作るのだが、I氏の場合はV4部の損傷、あるいは機能低下によりV1の生の情報を受け取ってしまっているがために世界の見え方がおかしくなってしまっていた。

 

・最後のヒッピー

厭世感のようなものから宗教に帰依していたグレッグの話。

視力の衰えを訴えてから三年ほどで完全に失明してしまった。

原因は脳内に腫瘍があったためで、取り除いても治ることはなかった。

記憶障害も併発しており、逆向健忘のため昔のことを、側頭葉に障害があり、新しいことも記憶しづらくなっている。

 

海馬が損傷してしまったため、意識的な記憶は思い出せないが、

習慣化(意味記憶だったり、手続き記憶)はできる。

さらに腫瘍は前頭葉も破壊してしまっていて、無気力状態にもなってしまっていた。

前頭葉の破壊にかかわって有名なロボトミー手術についても記載されていた。

 

 

・トゥレット症候群の外科医

トゥレット症候群は痙攣、他人の言葉や動作の繰り返し、汚言を特徴とし、本人の意思には関係なく起こってしまう。

このような症状のために精密を要求される職業は難しいと思われるが...

今回はトゥレット症候群で外科医をしているカールの話。

 

周りの目からは奇行としかとらえられないような脅迫行為をもつカールだが、最初こそ不信や疑いの目を向けられていたものの徐々に信頼されるようになり、

病院勤めを問題なくこなせるようになっていた。

トゥレット症候群にもかかわらず、手術も問題なくこなている。

本人によれば手術中は自分がトゥレット症候群であることを意識すらせず、ただ集中しているらしい。

 

オリバーによれば他には俳優であれば演技中は症状が消失したりといった例もあるそうだ。

 

・「見えて」いても「見えない」

重い白内障で生涯のほとんどが盲目なヴァージルの話.。

手術によって視力を回復したはずだったが...

6歳から盲目だった彼には視覚的認識を構築できなかった。

視力を回復した瞬間、彼には人がただの塊に見えたらしい。

このことは見ること自体は目の機能としてのものでも、見たものを解釈してそれが何か学習するのは脳の機能といえる。

 

盲目であった人々が視力を回復した際は、たとえ青年期という比較的遅い年齢に盲目になったとしても視覚的認識がなくなってしまい、

距離の把握ができなかったり、文章の理解ができないといったことが起こる。

盲目であった頃より生活に苦労することが多い。

視力が復活したことにより生活が崩壊し、精神を病んでしまうものも多い。

元々使っていない感覚が一つ増えるというのはどれほどの負担なのだろうか...

 

・夢の風景

故郷に取りつかれた画家のフランコの話。

 

あるときから夢で故郷を見るようになり、取りつかれたように起きているときも故郷の「幻」が現れ、四六時中故郷のことを考えるようになった。

それからというものの絵の経験がなかったフランクだが故郷の絵を描き始めるようになる。

 

この症状は側頭葉癇癪が関わっていて、感情が高まり、性格が変わったりする。

強迫的に芸術活動をして、使命感や運命といったものに取りつかれることが多い。

「ドフトエフスキー症候群」とも言われる。

 

・神童たち

サヴァン症候群自閉症の画家であるスティーブンの話。

彼は建物の絵にしか興味を示さず、7歳の頃には大人顔負けの建物絵を描くようになっていた。

自閉症には極端なこだわりを持つ傾向がある、例えば絵の中でも建物しか書かないなど。

サヴァン症候群の特徴としては些細なことでも重大なことでも区別なしに覚えていられるのが特徴。

普通記憶するときは因果関係だったり、つながりで覚えるもの(エピソード記憶)だが、サヴァン症候群では関係なしに記憶する。

 

絵を描くことが彼の生活の大部分で人との交流はほとんどなく、絵の先生とよべるクリスくらいなものだった。

無感動という言葉が当てはまり先生のクリスと離れることになっても落ち込むそぶりはたいしてなかった。

絵だったり音楽をしているときは自閉症症状が消え、生き生きとした感情があるように見えたが、

オリバーは自分の感情なのか、音楽だったりそういう芸術から借りてきたものなのか疑問に感じていた。

感情を伴わずただ機械的に芸術活動をしているのか、それとも芸術から感じたことを表現しているのか。

 

・火星の人類学者

ティーブンと同じく自閉症のテンプルの話、動物学で博士号を持つ。

自閉症は他者の心の概念もなければ、他者の心を感じることもない、当人の心という概念すらないと評されている。

自分の内面的な感情について話せる自閉症を「高機能」自閉症、またはアスペルガー症候群という。

 

オリバーは表面的には社会的な行動を身に着けることも可能だが、あくまで形式的なだけであって内面は成熟していないという。

 

テンプルは自伝、「我、自閉症に生まれて」を出版しているがジャーナリストの協力で書かれていることから、オリバーはジャーナリストによって相当な校正がされているのではないかと考えていた。

たが、テンプルが出した論文や他の自伝を読むうちに確かな感情があると感じ、考えを改めている。

 

テンプルもやはり、他人の感情の理解には苦労しているようだった。

物語を読んでも共感できず、驚きに乏しい。

だがそれを経験(自分の実際の経験、本や新聞)で補っているようだった。

例えばプラント工場で機械の故障が頻発 -> ジョンという男性が必ずいるとき

であればジョンがなにがしかしたかもしれないという風にする。

 

一個何かが起こっただけではうまく因果関係がわからず、AがあるからBがあるということを機械的に、論理的に学んでいく必要があった。

 

タイトルの火星の人類学者とは、

テンプルが通常なら考えずに他者の心を理解できるところを、テンプルは知的努力をして計測しなければならず自分のことをエイリアンのように感じていたことからきている。

 

感想

最初の色盲の章から面白かった。

脳の機能のどこが障害されるとどんな影響が出るかがエピソードごとに紹介されていて、単に参考書とかで入るよりずっと入りやすかった。

 

次は具体的な脳神経の本を読んでみようかなと思う。