mRNAワクチンの衝撃--コロナ制圧と医療の未来
どんな本か
mRNAワクチン自体の解説本...ではなく、ワクチンを世に出すためどのようなプロセスがあったかの本
なぜ読んだか
新しい薬が世に出るまでに5~10年かかると聞いていたので、今更ながらなぜここまで早くコロナワクチンが世に出ることに成功したのか知りたくなったため。
期待すること
ワクチンが承認されるまでのスピードの謎を知りたい。
なぜ他の薬は遅く、コロナワクチンは早かったのだろうか。
緊急承認みたいな制度があったとか?
解答
免疫系だったりワクチンについては別の本で勉強することにしてここでは承認スピードについて主に追うことにしたい。
--ワクチン開発までの流れ--
立役者となったのはビオンテック社、
創業者はウール・シャヒンとエズレム・テュレジ
元からエイズやインフルエンザワクチンの研究をしていた会社。
mRNAワクチンのノウハウは元から研究してきたので保有済み。
あとはコロナウイルスの知識をつけて、構造を理解し、どんな遺伝情報を含ませるかが大変だった。
従来のワクチン
->ターゲットとなるウイルスに似たものか、ターゲットウイルスの弱毒化バージョンを
患者に投与
時間がかかるし、細心の注意を払って作成しなければならない
何に細心の注意を払うかが書かれていなかったが、似たウイルスの選定や、弱毒化をどこまでさせるか、人体に危険はないのかまでの考慮...ということだと思う
mRNAワクチン
->広く入手可能な抗原を使ってmRNAに遺伝情報を含ませるだけ
生成されるのはウイルスの小さな一部分だけ
簡単なのはわかったが、安全性についてはよくわからなかった、小さな一部分だけだから安全ということなのかな
--実際にワクチン開発--
過去のワクチン開発では時間がかかりすぎて、ワクチンが出来上がるころにはもう収束してしまっていた。
金銭的な面だったり、治験のステップ3、人への治験を行うにあたってビオンテック社だけでは厳しいため、
ファイザーと復星医薬との提携で完成したワクチンを世界へ流通させる体制や、
人体試験のための資金やコネを獲得することに成功。
--ワクチンが作られる工程--
1. ワクチン自体の作成(数か月)
2. 動物実験(半年ほど、ただし結果が得られなかったら1に戻る)
3. 人への治験許可を規制当局へ申請し、第一、第二、第三相に分けて治験(過去の例では四年以上、ここでだめでも1に戻る)
第一相、ごく少量の摂取量から徐々に摂取量を増やし、で数十人が対象
第二相 数千人
第三相 人種も出身も幅広く数万人
--過去のワクチン開発の例から学ぶ--
RSウイルスワクチンの例としてはワクチンが逆にRSウイルスを助け重篤な症状を引き起こしてしまう事件があった
SARSウイルスでも似たような事例があった(こちらは人体投与までは至ってないが)
ワクチンが逆にウイルスを助け重篤な症状を引き起こすことをADEという
上記は対象となるウイルスの抗体をうまく作れなかったのが原因だった
なので今回、コロナウイルスの主な攻撃方法であるスパイクタンパク質を完璧に再現できさえすれば抗体がうまく作られ、効果なしどころか重篤な症状を引き起こすといったことを防ぐことができる
ただ、mRNAに送り込む遺伝情報がうまい物でも誤ったコピーができる可能性もある
なのでどうにかして安定して同じ構造のスパイクタンパク質を生成したい...
これにはバーニーグレアムが立役者で、HIV、RSウイルスを研究していて、
タンパク質の構造安定化を成功させている人物
ワクチンを作るにあたって対象タンパク質の全体を再現するか、一部分を再現するかの方法があって、ほかの会社は全体再現の方法をとっていた
一部分のメリットは全体を完璧に再現しないでよいので作成難易度が下がるし、
一部分だと作成された抗体の結合対象も小さくなるということなので、ADEを引き起こす確率も下がる
全体再現のメリットは変異株が出た際にも有効性が維持される可能性の高さ
ビオンテック社は両方試すことにした。
--時間短縮のノウハウ--(今回の疑問の主題)
[ステージ1~ステージ3全体の短縮]
同時にワクチンを複数作ることによって一個失敗したらまたはじめからということを避けている。
これにより複数のワクチン候補がステージ1~ステージ3を並列実行される。
[ステージ2の短縮]
ステージ2の動物への毒性試験は半年ほどかかる見込みだが、数週間に短縮させたい
これにはエボラワクチンのパンデミック下での報告書が参考になる
エボラワクチンの品質・安全性・有効性に関する指針
上記では、
公衆衛生上の緊急事態時には製薬会社が毒性試験の中間報告書をまとめた段階で、
人への第一相試験に進むことを規制当局は認めるべきと提言されている
動物の毒性試験では、
前半
ワクチンを投与し、ラットの様子や、投与直後の血液検査をし害がないか確認
後半
ラットを解剖し、臓器を顕微鏡で精査
この後半に時間がかかり、報告書に従うならば前半部分のみ終えた段階で、
同時に第一相試験に進めて大幅な時間短縮が可能になる
さらに遅延要因として、ワクチンの毒性試験のときは、人間に打つ回数より一回多く打たなくてはいけない、ワクチンの間隔は人間と一緒ということがある。
これは時間がかかってしまう、そこで時間間隔を縮めて打つことにした(3週間間隔のところを一週間)
理屈としては間隔を縮めて負担を上げても有害事象がなければOKということだった
これは本当にそうなのか?ワクチンの間隔がどう決定されるかわからないためちょっと判断できない
ということで緊急時に限ったちょっと強引な方法をとっていたようだ
まぁここは速度と安全性のトレードオフで安全性が許容できるレベルまで速度を上げているということだろう
[ステージ3の短縮]
通常、第一相試験はグループごとに薬剤の量を徐々に増やしていくので、数か月かかる
これを高速化するために、
過去のmRNAがんワクチンのデータにおいて有害事象は24時間以内に発生したことから、グループ間の投与を1~2日後にすることで時間を短縮できた
(でもこれってmRNAワクチンというだけで同列に考えていいのか?)