センスは知識から始まる
# どんな本か
センスは天性の才能で後天的には身に着けられないような風潮があるが、そうではなくセンスは知識の積み重ねにより作られると説いている本
# なぜ読んだか
芸術系みたいな、一般にどう学習すればいいか不透明なものについては「センス」という言葉が多用され、学習することをあきらめる風潮があるように思う。
絵とか特定の話ではなく、センスという言葉で片づけない学習法があるのかを知りたかった。
# 内容
・普通を知る
身に着けたい分野の普通を知ることでそれより良ければよい、それより悪ければ悪いの基準が身につく
その普通を身に着けるための方法は知識を得ること
・知識を得る
どんな種類の知識を得たらいいかというと、「驚きはないけど売れるもの、需要があるもの」の知識
つまり現在でスタンダードとなっているものを学べばよい
そのスタンダードを改良する、という方向でやっていく。
・知識を掛け合わせる
ある分野の知識と別の分野の知識を掛け合わせる
・客観性を大事にする
服の例でいうと、流行っている服があっても、ただ何の考えもなしに来ても似合うかに合わないかわからない。
自身の好みや流行だけではなく、自身の体系を考慮しないとよい服選びができない。
著者は客観性を得るための知識は雑誌5,6冊では足りず、100冊は要ると評している。
大量のサンプルがいるということなのだろう。
・ 知識を増やすコツ
1. 王道を知る(スタンダードなものを知る)
2. 流行を知る(一過性のもので良い物かどうかはわからない、雑誌がおすすめ)
3. 「共通項」や「一定のルール」を探す
・少しでいいからいつもと違うことをしてみる
行ったことのない場所に行くとか、新しい食べ物を食べるとか...
これは精神的にも良いとされている。
・本屋を一周して気になったものを確認する
これもいつもと違うことに通ずるものがある。
いつも読まないようなジャンルの売り場に行って目に留まった本があれば立ち読み位してみればよい。
GIVE & TAKE: 「与える人」こそ成功する時代
#どんな本か
他人に何かを与える人が成功するのはなぜか?という本
ただし与える人には二種類いて、成功する人と失敗する人がいる。
その違いを解き明かしている。
#なぜ読んだか
与えるとあるが、個人的には与える人はどちらかというと損な役割に回ることが多い気がしてそこまで成功するかな?と思って読んだ。
#内容
人は三種類のタイプに分けられる。
ギバー 貰うより多く他人に与える人
テイカー 与えるより多く他人から貰う人
マッチャー 与えられた分はちゃんと返す人
成功するギバーと失敗するギバーがいるが、成功するギバーになるための方法を書いていく。
-- 人に影響力を与える
・ちょっとした親切をする
人から見返りを求めず、親切にすることが大切
ただし与える時間と与える人には注意を設ける必要がある。
どれくらいの時間か、だれにより与えだれにより与えないかは後述するが、自分が燃え尽きない範囲の親切を心掛けたい
・自分がしたことより相手がしてくれたことに注目する
相手がしてくれたことより自分がしたことを高く見積もりがち。
相手がしてくれたことをリストにでも書くことでこのズレを直し、相手への感謝を忘れないようにする。
と、共に誰が何をどれだけしてくれたかがあいまいな記憶に頼らずにわかる。
・相手の視点に立つ
贈り物の例で考える。
欲しいものを分かっているとして、
送る人は欲しい物"以外"を送った方が相手が喜ぶと考えがちで、
もらう人は欲しいものをもらった方がうれしいと考えている。
なぜかというと、他人の視点から考えるといってもその人自体ではなく、私がこの状況だったらどうかで考えてしまっているから。
私ではなく、その人だったらで考えないといけない。
・質問を良くする
これで相手の視点に立つことが可能になる。
仕事の場合は仕事的に質問しても良いが、日常の時の質問はどうする?
まぁともかく相手に興味をもって質問するのが大事ということかな。
・アドバイスを求める
アドバイスを求めることにより、その人を評価している、重要だと思ってることを伝えられる。
ただし、こびへつらいで求めるのはダメ。
-- 与えることで燃え尽きないためには
・自己利益と他己利益の両方を高いレベルで追及する
自分の利益となると同時に他者の利益となるようにやっていく
これはどうすればいいかというと意味を持った仕事をやること。
自分がしたことで他者が喜ぶとしても、どんなふうに喜んでくれたか、だれが喜んでくれたかといったもたらしたこと、意味がわからないと燃え尽きてしまう
同じことで与えすぎずに、別の分野、環境で与えることでも燃え尽きを回避できる
・計画的にまとめた親切を与える
いつでもどこで親切を与えるのではなく、自分が決めた時間に親切を与える
ボランティア等余暇で親切をするときは百時間ルールを守る
換算すると週ニ時間となる
・人に助けを求める
助けるだけではつぶれてしまう、助けを求めることで燃え尽きを回避できる
-- テイカーに食い物にされないために
・愛想のよさに騙されない
愛想のよさは相手がいい人である判断基準の一つとされているが、これは相手がギバーであることを示すものではない
・共感の罠
共感能力は人間の美徳だが、テイカーに共感してしまうと食い物にされるだけになる。
テイカーと対峙するときは共感ではなく、相手の視点に立って考えよう。
共感と相手の視点の違いは
共感は相手が感じていること
相手の視点は相手が考えていること
似てるようだけど、感じていることを考えるときは自分の経験と感情が入り混じって主観性が入りやすい?
相手が考えることはこれまでの相手のデータで判断するのでより客観的で正しい判断になりやすい?
また人の視点で見ることはwinwin交渉にもつながる
ざっくりいうならテイカーと付き合う時のみマッチャーになればいい。
まだテイカーか疑わしい場合はギバーでもよい。
・押しが弱いギバーを交渉させる気にするトリック
自分自身ではなく、自分の大切な人になったつもりで交渉するという考え方がある。
これで誰かのために交渉してあげるという意識になりやる気が出るというお話
火星の人類学者--脳神経科医と7人の奇妙な患者
どんな本か
神経科医であるオリバーとさまざまな障害を持つ7人の患者の話
従来...というか患者の外面である症状だけでなく、患者の内面に飛び込んで病気だけではなく患者自身を理解しようとするオリバーが様々な患者について考察している。
なぜ読んだか
脳について興味があったが具体的にどこからはいるか決めていなかったのでとりあえず、小説本をセレクト。
興味がある部分を勉強出来たらいいと思う。
内容
・色盲の画家
後天性の全色盲を負ってしまった画家、I氏の話
色盲は基本的には錐体という網膜の視細胞の異常により起こる。
話の中で白黒といったモノクロが好ましく思えるのはそれが他の色と比較できるからで白黒のみの世界ではもはや好ましさなどないと語っていたのが印象的だった。
ただその中でも白黒での世界を絵に落とし込むことが生きがいとなっていて芸術家として力強さを感じさせる。
大脳のV1という部位で光の波長を感知し、V4に情報を送る。
V4部分で波長を処理して色を作るのだが、I氏の場合はV4部の損傷、あるいは機能低下によりV1の生の情報を受け取ってしまっているがために世界の見え方がおかしくなってしまっていた。
・最後のヒッピー
厭世感のようなものから宗教に帰依していたグレッグの話。
視力の衰えを訴えてから三年ほどで完全に失明してしまった。
原因は脳内に腫瘍があったためで、取り除いても治ることはなかった。
記憶障害も併発しており、逆向健忘のため昔のことを、側頭葉に障害があり、新しいことも記憶しづらくなっている。
海馬が損傷してしまったため、意識的な記憶は思い出せないが、
習慣化(意味記憶だったり、手続き記憶)はできる。
さらに腫瘍は前頭葉も破壊してしまっていて、無気力状態にもなってしまっていた。
前頭葉の破壊にかかわって有名なロボトミー手術についても記載されていた。
・トゥレット症候群の外科医
トゥレット症候群は痙攣、他人の言葉や動作の繰り返し、汚言を特徴とし、本人の意思には関係なく起こってしまう。
このような症状のために精密を要求される職業は難しいと思われるが...
今回はトゥレット症候群で外科医をしているカールの話。
周りの目からは奇行としかとらえられないような脅迫行為をもつカールだが、最初こそ不信や疑いの目を向けられていたものの徐々に信頼されるようになり、
病院勤めを問題なくこなせるようになっていた。
トゥレット症候群にもかかわらず、手術も問題なくこなている。
本人によれば手術中は自分がトゥレット症候群であることを意識すらせず、ただ集中しているらしい。
オリバーによれば他には俳優であれば演技中は症状が消失したりといった例もあるそうだ。
・「見えて」いても「見えない」
重い白内障で生涯のほとんどが盲目なヴァージルの話.。
手術によって視力を回復したはずだったが...
6歳から盲目だった彼には視覚的認識を構築できなかった。
視力を回復した瞬間、彼には人がただの塊に見えたらしい。
このことは見ること自体は目の機能としてのものでも、見たものを解釈してそれが何か学習するのは脳の機能といえる。
盲目であった人々が視力を回復した際は、たとえ青年期という比較的遅い年齢に盲目になったとしても視覚的認識がなくなってしまい、
距離の把握ができなかったり、文章の理解ができないといったことが起こる。
盲目であった頃より生活に苦労することが多い。
視力が復活したことにより生活が崩壊し、精神を病んでしまうものも多い。
元々使っていない感覚が一つ増えるというのはどれほどの負担なのだろうか...
・夢の風景
故郷に取りつかれた画家のフランコの話。
あるときから夢で故郷を見るようになり、取りつかれたように起きているときも故郷の「幻」が現れ、四六時中故郷のことを考えるようになった。
それからというものの絵の経験がなかったフランクだが故郷の絵を描き始めるようになる。
この症状は側頭葉癇癪が関わっていて、感情が高まり、性格が変わったりする。
強迫的に芸術活動をして、使命感や運命といったものに取りつかれることが多い。
「ドフトエフスキー症候群」とも言われる。
・神童たち
彼は建物の絵にしか興味を示さず、7歳の頃には大人顔負けの建物絵を描くようになっていた。
自閉症には極端なこだわりを持つ傾向がある、例えば絵の中でも建物しか書かないなど。
サヴァン症候群の特徴としては些細なことでも重大なことでも区別なしに覚えていられるのが特徴。
普通記憶するときは因果関係だったり、つながりで覚えるもの(エピソード記憶)だが、サヴァン症候群では関係なしに記憶する。
絵を描くことが彼の生活の大部分で人との交流はほとんどなく、絵の先生とよべるクリスくらいなものだった。
無感動という言葉が当てはまり先生のクリスと離れることになっても落ち込むそぶりはたいしてなかった。
絵だったり音楽をしているときは自閉症症状が消え、生き生きとした感情があるように見えたが、
オリバーは自分の感情なのか、音楽だったりそういう芸術から借りてきたものなのか疑問に感じていた。
感情を伴わずただ機械的に芸術活動をしているのか、それとも芸術から感じたことを表現しているのか。
・火星の人類学者
スティーブンと同じく自閉症のテンプルの話、動物学で博士号を持つ。
自閉症は他者の心の概念もなければ、他者の心を感じることもない、当人の心という概念すらないと評されている。
自分の内面的な感情について話せる自閉症を「高機能」自閉症、またはアスペルガー症候群という。
オリバーは表面的には社会的な行動を身に着けることも可能だが、あくまで形式的なだけであって内面は成熟していないという。
テンプルは自伝、「我、自閉症に生まれて」を出版しているがジャーナリストの協力で書かれていることから、オリバーはジャーナリストによって相当な校正がされているのではないかと考えていた。
たが、テンプルが出した論文や他の自伝を読むうちに確かな感情があると感じ、考えを改めている。
テンプルもやはり、他人の感情の理解には苦労しているようだった。
物語を読んでも共感できず、驚きに乏しい。
だがそれを経験(自分の実際の経験、本や新聞)で補っているようだった。
例えばプラント工場で機械の故障が頻発 -> ジョンという男性が必ずいるとき
であればジョンがなにがしかしたかもしれないという風にする。
一個何かが起こっただけではうまく因果関係がわからず、AがあるからBがあるということを機械的に、論理的に学んでいく必要があった。
タイトルの火星の人類学者とは、
テンプルが通常なら考えずに他者の心を理解できるところを、テンプルは知的努力をして計測しなければならず自分のことをエイリアンのように感じていたことからきている。
感想
最初の色盲の章から面白かった。
脳の機能のどこが障害されるとどんな影響が出るかがエピソードごとに紹介されていて、単に参考書とかで入るよりずっと入りやすかった。
次は具体的な脳神経の本を読んでみようかなと思う。
DNA鑑定 犯罪捜査から新種発見、日本人の起源まで
どんな本か
DNA鑑定は万能なのか?DNA鑑定とはDNAをどのように見て鑑定するか等、
DNA鑑定の解説書。
なぜ読んだか
最近ワクチンやウイルスの本を読んでいてDNAやRNAに興味が出てきたので読んだ。
昔読んだ本にDNA鑑定が現れた初期の方では冤罪もあったとあったのでDNA鑑定はどこまで信頼できるのか知りたかったのも理由
内容
-- 第一章 DNA鑑定「前夜」--
・DNAとはなにか?
DNAとは「核酸」のことで、「糖」「塩基」「リン酸」から構成されている。
「ヌクレオチド」とは上記三つ組の最小単位のことで、
リン酸を介してヌクレオチドが別のヌクレオチドとつながりDNAの一本鎖部分ができる。
もう一つの鎖と塩基(A,G,T,C)と塩基が結びついて二本鎖となり、DNAが出来上がる。
・DNA鑑定以前の判定方法
血液型による判定->電気泳動法->免疫グロブリン->HLAの順に精度が上がっていった。
特にHLAによる判定で飛躍的に精度が高まった。
簡単に説明すると、
血液型ではABO式といって赤血球を使っての判定なため、どうしても型の範囲が小さく精度が粗すぎた。
HLAはヒト白血球抗原の略で、白血球の血液型みたいなものを使う。
HLAの遺伝子の組み合わせは数万通りともいわれてこれには白血球の自己と非自己を区別する能力のために組み合わせが多くなっている。
・DNA鑑定以前の問題点
さて、HLAを使った方法で制度は親子鑑定でいえばほぼ100%になったが、何が問題なのだろうか。
1. HLAでは新鮮な2ml程度の血液が必要
2. 時間が一週間ほどかかり、また値段もかかる
・DNA鑑定ではどうなのか
DNAを「制限酵素」と呼ばれるパターンを認識して特定の塩基配列のみを切断する酵素で切断する。
その人その人でDNAの塩基配列のパターンは固有なため、
分離したDNAを特殊な試薬で染色すると、その人に特有なバンド(模様みたいなもの)がでる。
ただ、この方法は大量のDNAが必要だったり、得られるバンドの濃さがまちまちということであまり歓迎されなかった。
この問題を解決したのがPCR法で、現在では多くの人が聞きなれている方法
簡単に言えばDNAの増殖をする方法で、これで大量のDNAが必要問題は解決。
バンド問題については言及されていなかったが、大量にDNAを作ることで量で正確性を上げたということだろうか?
PCR法は法医学教室だけでなく、民間会社でできることもあり、費用も時間もかからなくなった。
なので、以上の点で、正確性を犠牲にせず、費用と時間を抑えられたのでDNA鑑定の方が有用ということだろう。
-- 第二章 なさねばならぬDNA鑑定 --
・DNAの採取しやすさの話
体のどこから最初するのがよいか、傷んでいるとDNAが残っていなかったりする
なので場合によっては50年前よりも一万年前の方が鑑定しやすいという例もある
口腔内細胞が採取しやすいが、大体どこからでも採取できる。
白骨化している場合は、歯が比較的良い採取先
・DNAの保存性について
亡くなってしまった後は、微生物が少なければ少ないほどDNAの保存性がよい。
細胞死の後は細胞の持つDNA分解酵素のほか、微生物によっても分解される。
また酸性条件化でない方が良い。
何故なら酸性条件下ではDNAは物理的に分解されやすいからである。
・DNAの種類と鑑定につかうDNAの部分
大きく分けて二つあり、
細胞の核の中にある「核DNA」
もう一つは同じく細胞内だが核の外、ミトコンドリアの中にある「ミトコンドリアDNA」
さらに、核DNAは常染色体(男女差なし)と性染色体(男ならXY、女ならXX)にDNAに分けられる
鑑定においてミトコンドリアDNAの優秀なところは子には母親のものしか受け継がれないということ
なのでミトコンドリアDNAを調べれば兄弟が共通の母親を持つかを鑑定できる
主に親子、親族鑑定で有用なのはY染色体、およびミトコンドリアDNA
Y染色体とミトコンドリアDNAが便利なのはそれぞれ父由来と母由来なので、精度をたもったまま父と母がいなかったとしても親族の力を借りて、鑑定ができる
鑑定制度だけど、別人と被る確率が、
ミトコンドリアDNAの鑑定で1/100、
Y染色体で 1/1000
なので二つの検査をすれば10万分の1くらいの精度で鑑定できる
やっぱりDNAの一部を判定するだけでは、他の人のDNAと被るので多重に判定して精度を高めているみたい
-- 三章 少しだけ学ぶDNA鑑定の原理 --
今までの章では結構ふわふわとしたままDNA鑑定の活用法だけが語られていたが、本章で"少しだけ"原理を学ぶ
本書の説明もそうだが、下記サイトがDNA、染色体、遺伝子について良く整理されていたので参考
ミトコンドリアDNAについては下記が詳しい。
核DNAと違って、
・環状になっていること
・より変異しやすいこと
が特徴。
同じ生物種の中での違いを「多型」という。
DNA判定はこの違いを利用して行われる。
・変異の種類
DNA全般の三種類
1.塩基の置換による多型(SNP)
AGT "A" C
↓
AGT "G" C
みたいに置換されている多型
2.繰り返しの回数(STR)
/TCTA/TCTAみたいに繰り返している部位、これをSTRという。
この繰り返しの数が変異する。
あらかじめ有用な繰り返し部位が定められているので詳しくは本書で(16種類あって、TCTAもその一つ)
性別判定を除いて、この15種類が日本人の二人で一致する確率は1/10^17(10京分の1)
ただ、血縁関係や縁者関係が濃いところで二人を限定するともっと確率は上がる。
3.塩基の挿入、欠失(インデル多型)
AGT A C
↓ (挿入)
AGT A "GAT" C
上記みたいに変異する。
・ハプログループについての話
ハプログループとは?
DNAの一部分でなくDNAの塩基配列全体を一つのタイプとしてみること。
ミトコンドリアDNAはDNA全体が母親からそっくりそのまま受け継がれ、
Y染色体はY染色体全体が父親からそっくりそのまま受け継がれるので、
それぞれ一つのハプログループとしてみることができる。
ハプログループの分類は各ハプログループに特有なSNPによってなされている
-ミトコンドリアのハプログループ(母系)-
詳しくは本書を見てもらいたい。
A~Zタイプに割り振られていて、イブと呼ばれる女性からアフリカン、モンゴロイド、コーカソイド...と分類されている
-Y染色体のハプログループ(父系)-
これも詳しくは本書で。
A~Tに割り振られていて、アダムと呼ばれる男性からアフリカ、日本、インド..に分岐していく。
ミトコンドリア、Y染色体のハプログループともに地域ごとに特徴的な分布を持つので自分がどこどこの地域出身とかがわかる。
-- 第四章 世にDNA鑑定の種は尽くまじ --
四章はちょっと脱線した話。
僕が本書を読んだ目的とはずれているので、参考程度に挙げておく。
・詐欺事件をDNA鑑定の力で解決
・果物の窃盗犯?をDNA鑑定の力で特定
・骨からわかる多彩な情報
・便のDNA検査で人の行動が割り出せる?
・死体に群がる動物をDNA検査で特定し、その動物から死体の古さを割り出す
・絵画のDNA鑑定
・水等の環境由来のDNAを利用して犯人を特定
-- 第五章 DNA鑑定が明かす日本人の起源 --
-日本人の起源についての話-
ここも自分の主目的ではないので大幅カット
縄文人はどこから来たのか?という話がされている。
ミトコンドリアDNAのハプログループによって人種を分類して、考察をしていた。
時間をかけて縄文人に独特のハプログループ「M7a,N9b」ができる ->
中国から ハプログループ「D4」の人種がやって来て弥生人となる ->
稲作がはやらなかった北方や沖縄では 縄文人のみだったので今でも「M7a,N9b」が濃い
・縄文SNPの話
縄文人に特有のSNP(塩基の置換による多型)があり、
このSNPを持っている地方を調べたところ、まず海外にはそれほどみられない
日本内では沖縄や岩手では結構もっている(日本の内側については言及されていなかった、日本全体で持っているということで良さそう?)
・死後DNAは信頼に足るか
こちらは主目的なのでもう少ししっかりとみていく。
死後DNAは分解ではなく、変性してしまったきりで修復がされない。
例えば、CがUにかわったり,Tに変わったりといった具合になってしまう。
本来生きていれば修復され元に戻るのだが、死んでしまっては変性したきりとなる。
なので、死後長時間をかけて、紫外線にさらされて変性が起こってしまっている場合などは、DNA修復キットを使う。
ただ修復キットでは治せない変性も存在するので100%信頼に足るものとは言えないのが現状。
上記より一般的には環境的に保存状態が良い等の理由がない限り、古ければ古いほどDNAは信頼できなくなってくる。
古い人骨が出土して、解析結果を調べる際も、
状態が悪くとれる遺伝子は全体から見てごくわずかな部分だけだったり、
現代人のDNAがくしゃみなどいろいろな理由で骨に付着してしまってDNA汚染が起きたりと信頼性には疑問が残るようだ。
PCR試薬等、検査キット由来でのDNA汚染もあるようなので細心の注意を払っても足りないくらいなのだとか。
なお現代人のDNAを鑑定するときは汚染が起きても、現代人のDNAであればとれるDNAの量は多いので汚染がさほど問題にはならないのでそこは一安心
-- 第六章 DNA進化で迫る進化の謎 --
この章も主目的ではないので軽く。
この章で検体の保存状態によってはDNA鑑定は信頼に足らない場合も多々あると念押し更ている。
現在生物の分類は分子系統樹でされているが不足があり、分類が正確にされていない。
そのおかげというべき?かDNA鑑定でエビの新種が見つかった話
食品偽装や産地偽装が問題だがDNA鑑定で暴く話など...
一点面白かった話があるのでメモ、遺伝子組み換えやゲノム編集技術で鋼鉄よりも強く軽い糸を微生物やカイコに作らせているそうだ。
遺伝子組み換えの場合は組み換えに使用したベクター(運び屋)の情報がわかれば遺伝子組み換えかどうか判別できる。
ゲノム編集の場合はどうなのだろうか...
-- 第七章 犯罪捜査とDNA鑑定 --
本章は一番知りたかった犯罪捜査の章。
・科捜研について
犯罪捜査におけるDNA鑑定を行っているのは科捜研
各都道府県の警察の付属機関。
似た名前に科警研があるが、これは警視庁の付属機関、つまり東京のみにある。
科警研は科捜研の上位となっている。
・DNA鑑定が引き起こした悲劇、足利事件
足利事件の時はDNA鑑定が実用化されて間もないころだった。
菅家利和さんという方が冤罪をかけられてしまった事件。
--MCT118法について
MCT118法と呼ばれる方法、STR法と同じく繰り返しに注目する方法だが、
MCT118と呼ばれる座位の繰り返ししか注目しない。
両親から一本ずつ染色体を受け取ることを考えると、個人は二通りの繰り返し方法しか持たないことになる。
たとえば片方が20回繰り返し、片方が30回繰り返しなら20-30型みたいに分類される。
この繰り返し数の長さを図る方法は、
染色試験で現れるバンドを塩基ラダーで測る
--
MCT118法で菅家さんと犯人のDNA型がいずれも16-26型であった。この時使われた塩基ラダーは123の塩基数からなる123塩基ラダー
そして逮捕され18年も刑務所にいる事態が起こってしまった。
--問題点
1.MCT118法の信頼性
2.MCT118法と123塩基ラダーのミスマッチ(別の塩基ラダーで測る必要があった)
3.電気泳動の手技が未熟だった
4.バンドパターンの判読の誤り
以上が問題点であるが、問題点の大部分が導入されて間もない技術だったが故のミスに思える。
さて、時代が進んだ今、上記のような誤りは減ってきたにしろ、
冤罪が起こる可能性はないのだろうか?それを以下で見ていく。
・現代のDNA鑑定
科捜研が行うDNA鑑定はSTRのみ。
他の鑑定方法(ミトコンドリアDNAを使ったもの等)は特許の関係もあって行うことができない。
STRのメリットとデメリットは下記
メリット
三章でも述べたようにタイプが16種類もあり、個人識別能力に優れる。
デメリット
状態の良くないDNAに対しては無力
-DNA汚染、混合DNAに注意
PCR試薬や検査する人間由来のDNA汚染、だったり、
犯罪現場から得られたDNAが複数人のDNAが混在しているものだったりがある。
DNA汚染は細心の注意をもって防ぐしかないが、
混合DNAはSTRによる鑑定では無力である。
理由としてSTRは各染色体上に散らばって存在しているのであるSTRと他のSTRのつながりを確かめる方法が全く存在しない。
ミトコンドリアDNAであれば環状で、散らばって存在ということがないため、複数人を比較的容易に見分けられる。
--
上記のような検査方法の限定やDNA汚染、混合のような問題が今でも残っている。
技術的な問題というよりは単に法制度等の問題で、最善を尽くしていないように見受けられるのが残念でならない。
感想
244ページとそこまで長くはない本だったが、得られる情報量が多く良い本だった。
とくにDNA鑑定の実際を語ってから、その原理に少し踏み込んで説明し、
また実際に戻るというスタイルが奏功して最初でつまずかず、また上澄みを撫でただけで終わらない良書になっていると感じた。
また人に限らず、動物だったり過去に何があったかの大まかな推理まで幅広いレンジのことがDNA鑑定でわかることを知れたのは収穫。
次、DNA絡みの本だったらゲノム編集の本を読もうと思う。
もしくは進化心理学につながる話題がたくさんあったので、そっちに行っても面白いかもしれない。
13歳からの地政学
どんな本か
中学生からでも学べる地形にかかわる国と国の問題
兄弟の大樹と杏が謎の老人"カイゾク"の元で地政学について学んでいく一週間の話で小説形式になっている
なぜ読んだか
地形が国の外交にどのように関わるのか知りたかった、戦争だったら影響与えるのはわかるけど、外交への影響の及ぼし方はどうなんだろうか
内容
-- 一日目 物も情報も海を通る--
貿易の90%は船によるものだが、そもそもなぜ陸路より海路を選んだのだろうか。
日本にいると想像がつかないが、陸路だと
・そもそも交通手段がない場所がある(自然環境が厳しすぎる)
・国の経由で税金がその都度かかる、手続きが面倒
等の問題があり安定しないからである。
物だけではなく情報も海を通っている。
情報の99%が海底ケーブルを使ってやり取りされている。
上記の話から海を抑えた者が強いということがわかるが、それをやっているのがアメリカである。
アメリカは世界で一番海底ケーブルを張り巡らせているし、
海軍を海に一番配置している国でもある。
引き続き海の話をしていくと、世界で最も大きな海は太平洋だが、
広さは二番目に大きい大西洋の二倍、
深さは平均4200m
となっている。
この深さという概念は結構大事で、排他的経済水域にある海の深さが深ければ単純に自分の縄張りが大きいこととなる。
日本は周囲の海が深いところが大きいので日本は世界で4位という高い位置になっている。
-- 二日目 日本のそばに潜む海底核ミサイル --
核ミサイルはどう使うにせよそもそも先につぶされては意味がない。
なので位置を隠すことが肝要だがどこに隠すか?
地上は人工衛星からの目が合って隠し辛いので海が有力な選択肢となる。
海といっても海の中に落としておくというわけではなく、潜水艦の中に隠しておく
潜水艦なら動いて逃げ回れるという点でも有利となる。
ここで核を最強の兵器にする三条件が提示されていて、
・海の中からミサイルを発射する力
・そもそもの基盤となる海の支配を持つこと
このうち一つでも欠けると核兵器を潰されてしまうリスクが高くなるため最強とは言えなくなる。
ロシアも核ミサイルを保有しているが、前述の通り海に核兵器を隠しているが、そこはオホーツク海で北海道のすぐそばである。
これが日本のすぐ近くに潜む核..というタイトル回収
さて、ここで中国がなぜ南シナ海を欲しがるかを考えてみる。
中国は核も持っているし、原子力潜水艦もある。あとは海だけ。
他の海じゃだめか?という話だけど、
黄海は原子力潜水艦が潜るには浅すぎるのでやっぱり南シナ海しかないが。
ここはどんな国の船でも入れるし、まわりにベトナムやフィリピンがいてとても自由にできるとはいいがたい。
ここで核を持つ意味についての話に移る。
核を持てば世界に対し、力を誇示することにつながるからであり、
力を持つメリットは、
・他の国に自国を好き勝手されない
・自分の国の通貨の信頼度が高まる(信頼度が下がって紙切れになったのがベネズエラ)
他国に対してある程度めちゃくちゃやったとしても、力を手に入れさえすれば文句も言われにくくなるのでメリットはあるというわけだ。
国際法でどうにかなるんじゃ?と思うけど強制力は正直薄く領土はとったもの勝ち感が強い。
ウクライナの領土だったクリミア半島がロシアに占領されても非難どまりだったし...
さすがに今回の戦争レベルまで行くと非難じゃすまないけども...
国の位置と外交の話
アメリカと中国はともに大国だが、お互いの中は悪い
中国と遠い国は攻められる心配がないので中国とは友好的にしやすい
中国と近い国は攻められるのが怖いのでアメリカと友好的にやっている
遠くの国と仲良くして近くの国の脅威に対抗することを「遠交近攻」という
-- 三日目 大きな国の苦しい事情 --
大きな国の国境
隣り合っている国は国境が陸にあるわけだけど、中国とロシアのように大きい国は国境も大きい。
国境全部を見張っているわけにもいかないので、必然的にある程度はうまくやっていくことになる。
大きな国特有の内部の問題
大きな国は内部に多くの民族を抱えているわけだけど、民族が不満に思えば国から独立されてしまう。
解決法としては単純に国を良くするか、もしくは暴力で制圧するか。
ロシアの例でいえばまず暴力で制圧してから、お金を渡して生活を良くしていた。
現在の中国の話をすると、現在の中国は国防費より、治安維持費の方が高くついてしまっている。
これは少数民族が豊かになれておらず不満がたまっているからで、例としてはウイグルやチベットが挙げられる。
中国の治安維持とは暴力もそうだけど、監視という点もある。
--リーダーになるための条件--
選挙がない国では、戦争に勝ってカリスマを示すことでリーダーとしての力を示す方法がある。
中国の毛沢東だったり、最近ではプーチン大統領がクリミア半島を攻撃したり。
ただ選挙があったとしても反対派を抑え込む動きだったり画策をしたりすることもあり、選挙がある=民主主義が正常に運転しているというわけでもない
-- 四日目 国はどう生き延び消えていくのか --
前回は大きな国を見たが、小さな国はどんな生活なのだろうか。
小さな国は大きな国の助けを借りて攻撃されないようにしている、前に記載した遠交近攻を使っている。
そもそもなぜ小さな国ができるかというと、何らかの理由で大きな国が分裂->
小さな国となるんだけど何らかの理由とは?
たとえば王様が治めている国だったら王様の求心力が弱くなったりとかがある。
王様と言えば君主制で、王様がいないのが共和制である。
王様と言えば絶大な権力を持っていて、やろうとすればやりたい放題なイメージがあるが、現在では王様といえども権力を持つ国は少ない。なぜだろうか。
政治的に誤ったことをしてしまうと国民のヘイトも向ってしまいがちになってしまう。
なので政治的な役割は王様とは分けるという方策をとっている。
小さな国の特色として外交官が優秀ということがある、というより優秀でなければ生き残っていけない、弱い立場に置かれてしまうからだ。
あとは自国以外の言語が達者になりやすい、これも生き残りのために話す必要があるからということ。
-- 五日目 絶対に豊かにならない国々 --
今回は貧困の話
アフリカは十分大きいが、なぜ貧しいのだろうか。
豊富な天然資源もあるのだから貧しさの理由は...?といなる。
本書ではこれは政治家が海外にお金を横流ししているせいだと述べている。
アフリカはイギリスやフランス、ドイツに支配されてきた国々で、独立したものの、
アフリカの国々の政治家とヨーロッパやイギリスの政治家が組んでしまっていて、お金が横流しされているのである。
なぜアフリカのリーダーはこんなことをしてしまっているのだろう。
アフリカは支配されていて、支配していた国々が勝手に縄張りを決めてしまったせいで
バラバラな民族が一緒の国にいるという事態になり、
独立がおこったあとは自分のいる国よりも自分の民族を優先させようとして国の中で争いが起こってしまう。
こうしたときに暴力で押さえつけるのが手っ取り早く、軍をバックにした力で押さえつけるリーダーが生まれていった。
そのリーダーも結局は自分の民族が大事なので他の民族がいる自分の国にはお金を使わず、自分の身内のためつかっている。
ただし、資源を不当に国民から奪っている汚いお金のため直接自民族のためには使えない。
なので海外にながしてマネーロンダリングをしているというわけである。
このアフリカから流れてくるお金はイギリスのケイマン諸島に主に流れている、俗にいうタックスヘイブン
アフリカの人々は資源を不当に搾取されているだけでなく、労働も搾取されている。
貧しいことから機械等の技術も導入できないため、例えばカカオ豆をチョコレートにすることができず、チョコレートで儲けるよりもはるかに低いお金しか儲けられないカカオ豆収穫しかできない。
貧しいから儲けられない、儲けられないから貧しいというどうにもならない状況になっている。
ここで多民族でも豊かになれた小国を希望としてあげておく。
シンガポールといえばIT系でもとても有名になっている国であるが、
この国は中国系、インド系、マレー系など他民族の国となっているが、建国の父であるリー・クアンユーは民族の争いが起きないように力を尽くした。
例えば一つの団地の中でも中国系のみとしたのではなく、逆に必ず他民族の団地都市交流を持たせることにした。
そして民族間の争いは徹底に取りしまった。
相互理解を経て発展していったのはとても良い好例だろう。
-- 六日目 地形で決まる運不運 --
今回は地形の影響の話
アメリカが海を支配していて世界最強という話を一日目にしたが、それではなぜアメリカは最強なのだろうか。
アメリカを最強たらしめているのは土地の影響によるところが大きい、
・天然資源豊富
・気候の良さ
・アメリカの上下にある北と南は気候が厳しくアメリカよりも弱い、横は大西洋と太平洋で守られていて守備力が高い
逆に地理的に恵まれていない国の話をすると、朝鮮半島がそう。
悪条件として
・大国に挟まれている
・海や川、山などの自然の守りがない
・豊かな資源や農産物、便利な港がある(狙われやすい)
戦争のあとで恨みをもつもたないの違いはどこで生まれるのか
これは戦争を一旦忘れて前向きに行こうという態度、
天皇に責任を押し付けることの回避
等の理由で敗戦としてしまうと責任問題になってしまうからという理由があった。
韓国が日本を恨んで、なぜ日本はアメリカを恨まないのかという話が出ていたが、
日本と韓国の間では、
法律的には賠償金を払い続けているから日本はもう許されてもいいという立場、
だがあそこまでひどいことをしておいて時効も何もないしお金で許される問題じゃないから韓国に同情的な立場がある。
ただこれってなぜ日本がアメリカを恨まないのかの説明にはなってない気がした。
日本には原爆を落とされているわけだし、
韓国-->日本のように恨みがあってもおかしくない気がする。
これはやっぱりアメリカが多大な力を持っていることや、韓国での教育といった側面があると思うけど全く触れられていなかった...
-- 七日目 宇宙から見た地球儀 --
南極の話
南極は資源も豊富でどこの国というわけでもないため、争い防止のために南極条約が敷かれている。
地球温暖化の話-いい面と悪い面-
氷が解けてしまい、海面上昇やホッキョクグマが死んでしまう等の悪いニュースがある。
ただ一応良い面もあり、
氷が解けるとヨーロッパ、北アメリカとアジアの距離が近くなり貿易のスピードが上がる
ロシアの北極付近は寒すぎるため資源が豊富な場所を採掘できなかったが温暖化の影響で、船での交通もしやすくなり資源の掘り出しが可能になっている
等の側面もある。
なぜ日本は極東と呼ばれるか
これは日本から見た視点ではなくヨーロッパから見た視点で見ると分かる。
ヨーロッパではヨーロッパが真ん中な地図なのでその地図上では日本が極東にあるというわけ
これは世界の中心がヨーロッパだったときの名残
感想
国と国の関係が置かれている場所によるものであったり、その場所によって国の特性が変わってきたり行動が変わってきたり...ということを学べた。
特に小説仕立てになっているのですっと頭に入ってくる。まさに13歳から~というタイトルにふさわしかった。
ただ、もやもやする点もあった。
国の生き死にを議題に挙げている章があったが、
どうやって成立したか、滅びる具体的な流れとか、全体的にいろいろ詳しいところは書かれていないといったように説明がなされていない箇所もあったように思える。
これはタイトル通り入門編なのでこの本の範囲を超えるということだろう。
京大 おどろきのウイルス学講義
どんな本か
ウイルスについて学部一年~二年生にむけて平易な言葉で解説した本
なぜ読んだか
前回コロナワクチンについての本を読んだ。
ウイルスについては全然知識がなかったので、ウイルス自体の変異だったり、ウイルスが人体に侵入する仕組みを知るため。
第一章 「次」に来る可能性がある、動物界のウイルス
主に動物由来のウイルスの話
人に対して感染するウイルスよりも動物に対して感染するウイルスの方がはるかに数が多い。
新興ウイルス感染症が起こるときは、もともとの動物では問題なかったのに、
人に感染すると強毒性を発揮することが多い。
現在は動物のみに有毒なウイルスだが、人に感染する変異をする恐れがある例が多数紹介されている。(ウォーラルウイルス、ブルータングウイルス等)
第二章 人はウイルスとともに暮らしている
毎年、数個のヒト新興ウイルス感染症が確認されている
コロナウイルスは規模が大きかったからここまで話題になったが、話題になっていないだけで数個は年に現れているということ
感染症が広がる原因は
1.都市化
2.交通の発達
3.戦争
とある、人がどれだけ容易に流動できるかが鍵
ここまで危険で怖いウイルス、ウイルスの負の面ばかりが紹介されていたが正の面も紹介されている。
例として、鶏にがんを引き起こすマレック病を予防するヘルペスウイルスが紹介されている
人のガンに対しても同様にできないか研究が行われていて、腫瘍溶解性ウイルスと呼ばれている。
また、ウイルスそのものではなく、ウイルスが放出するマイクロRNAに注目する研究もある
一生から続く主張として、表立って感染するウイルスだけではなく、危険なウイルス、有用なウイルスもあるのだから予算を増やしてもっと目を向けるべきとしている。
第三章 そもそもウイルスとは何?
--ウイルスとは--
細胞の役割はタンパク質の合成で機構は以下となっている。
RNAはDNAの一部分のコピー、ただしT(チミン)の代わりにU(ウラシル)が使われている
細胞内で以下が行われる
DNA RNA タンパク質
->(転写) ->(翻訳、リボソームを使用)
<-(逆転写)
ウイルスとは大きく分けると二種類
タンパク質の殻の中にDNAが入っているやつ(DNA型)とRNAが入っているやつ(RNA型)がある
そのタンパク質をエンベロープと呼ばれる脂質で覆うタイプもある
ウイルスはリボソームがないため増殖ができない、なので生物の細胞を使って増殖する
増殖する手順としてはRNA型ウイルスの例だと
細胞に侵入->ウイルスのRNAを使ってリボソームにウイルスRNAに書かれているタンパク質を作らせる->タンパク質の中のRNA複製酵素によりウイルス増殖
DNAとRNAというざっくり2分類したが詳しく分けると7分類となる。
通常DNAは二本鎖、RNAは一本鎖だが、ウイルスの場合DNAなのに一本、RNAなのに日本の場合がある、
また逆転写を行う場合があること、
RNAの鎖にはプラス鎖、マイナス鎖があること(マイナス鎖は一旦プラスに戻さないとリボソームを使用できない)を考えて、
1. 2本鎖DNA
2. 1本鎖DNA
3. 2本鎖RNA
4. 1本鎖RNA プラス鎖 <---新型コロナウイルスはここ
5. 1本鎖RNA マイナス鎖
6. 1本鎖RNA プラス鎖 逆転写 <---レトロウイルスと呼ばれる
7. 2本鎖DNA 逆転写
--ウイルスの変異について--
ウイルスの組み換えによってウイルスが変異することがある。
組み換えとはある動物の細胞に二つの別種のウイルスが同時に感染したときに、
ウイルス複製の際二つのウイルスが混ざること
例えば、ネコがネココロナウイルス、イヌコロナウイルスに同時に感染したとして、
コロナウイルスでも変異があるが、これは組み換えによるものではなく、ウイルスがランダムに配列を変異させたものである
ランダムといえる理由は配列のほんの一部、数か所が変化しただけであるため、組み換えはもっとごっそり変化する
インフルエンザウイルスは構造的にコロナウイルスより変異しやすい
なぜ変異しやすいかというと、中にあるRNAがコロナウイルスの場合は一本にしっかりつながっているが、インフルエンザウイルスの場合は7~8本に分かれている(一本鎖が7~8分節されている)
...と記載されていたが、これってなんで変異しやすいといえるんだろう、分節になっているからRNAの複製中に乗り換えがより起こりやすいとか?
レトロウイルスもわざと組み換えが起こりやすい構造になっている
レトロウイルスは1本鎖RNA プラス鎖ではあるんだけど、プラス鎖を中に二本持っている
レトロウイルスの種類A,Bがあり、同時感染したとして、ウイルスが複製されるときに
A1,A2,B1,B2と四本できる、一個のレトロウイルスが二本必要なので1/2でA,B両方のRNAを持ったレトロウイルスが生まれることになる
第四章 ウイルスとワクチン
--ワクチンの種類--
ワクチンは大きく分けて二種類
生ワクチン - 弱毒型の生きたウイルスを使う
抗体(液性免疫)と細胞性免疫を誘導でき、一回接種で十分
ただ、復帰変異といって強毒型に戻る危険性があるので人には使いづらい
不活化ワクチン - 死んだウイルス全体、もしくは一部を使う
抗体は誘導できるが細胞性免疫はあまり誘導できない、二回以上接種
細胞性免疫とはT細胞で感染済みの細胞を攻撃すること
抗体は細胞に侵入前にウイルスを攻撃できる
この二種類のほかにも核酸ワクチンが存在して、DNAワクチンとmRNAワクチンがある。
DNAワクチンには大きな欠点があり、人のDNAにワクチンのDNAが組み込まれてしまうといった問題がある。
その欠点を補うように生まれたのがmRNAワクチン
この本には書かれていないが、mRNAの衝撃という本であった工夫として、通常外部からきたmRNAは自然免疫で排除されるが"ステルス化"することで無事リボソームまで運ばれるようにしてある。
--ワクチンのリスクについて--
Aというウイルスに対する良い抗体が、Aによく似たBには悪い抗体になって重篤な症状を引き起こすことがある
例としてデングウイルスがあり、
1~4の型があるが、1型に対する良い抗体は他の型にとって悪い抗体になってしまう
第五章 生物の遺伝子を書き替えてしまう「レトロウイルス」
ここから最終章まではレトロウイルスの話
--レトロウイルスとは--
レトロウイルスはRNA->DNAを可能にする酵素を中に持っている、レトロとは「逆の」という意味
レトロウイルスの特徴はRNA->DNAとして感染した細胞のDNAに自身のDNAを加えることにある(ただしDNAを書き替えるウイルス自体は他にもあるので注意)
変化したDNAによってレトロウイルスは繁殖していく。
内在性と外在性レトロウイルスがあり、親世代の生殖細胞に感染して、子世代のすべての細胞に伝わったレトロウイルスを内在性という
他は外在性
ただ通常生殖細胞はレトロウイルスに対して強固で感染することはないが、6550万年前,恐竜が絶滅したときに地球環境にするため、レトロウイルスを積極的に取り入れていたらしい
--DNAのコピー&ペーストを行うものたち--
レトロウイルス、DNA中のLINE(長い反復配列),SINE(短い反復配列)
これらは逆転写酵素の配列を持ち、レトロトランスポジションといわれ、
コピー&ペーストなので反復配列がどんどんDNA中に増えていくことになる
この増えた反復配列をレトロトランスポゾンという
反対にトランスポジションも存在し、こっちはカット&ペーストなので、
配列は増えることがない、移動する部分の配列をトランスポゾンという
これらはともにDNAを作り変えるので進化に有用な働きとなっている
--ウイルスの生存戦略--
としていかに早く多様性を獲得するために変異するかという点が重要になってくる
そのためにインフルエンザウイルスみたいに7,8分節になったり、レトロウイルスみたいにRNAを二本含んで他のウイルスと遺伝子をごちゃまぜに出来るようにしている
第六章 ヒトの胎盤はレトロウイルスによって生まれた
--レトロウイルスと胎盤--
母親の免疫機構がが胎児を異物として攻撃しないのは何故だろうか。
胎盤形成の際に使われるシンシチン2というタンパク質があり、これがレトロウイルス由来であることが判明している。
このシンシチン2が免疫抑制性の配列を持っていて、胎児が母親から攻撃されないように免疫抑制をしている。
--レトロウイルスと細胞初期化--
ips細胞と言えば分化済みの細胞を初期化して好きな細胞に分化できるといわれているが、実は完全な初期化ではない(ただし医療目的では問題ない)
完全初期(最初の一つの細胞~二細胞まで) -> 4細胞~分化前まで(es細胞、ips細胞)
なので完全初期の細胞ではない
完全初期とそれ以降では発言するRNAが違い、完全初期の段階のRNAはとある内在性レトロウイルスの配列であることがわかっている
第七章 生物の進化に貢献してきたレトロウイルス
生物の進化のためにはゲノムサイズを増やすことが肝要となってくる。
鍵となるのは第五章でみたレトロトランスポゾンで、この力でゲノムサイズは格段に増えることとなった。
具体的にどんな進化に使われたかを皮膚の例で見ていく。
魚類 -> 両生類 -> 単弓類 -> 哺乳類
多層上皮 角化重層扁平上皮 さらに強固な角質層
陸に上がるため、 陸で過ごす時間
乾燥に耐えるように が増えたため
この進化の過程で遺伝子の変化が起こったと考えられるが、SASPaseという酵素が発言するようになり天然保湿成分を獲得できるようになった。
このSASPaseがレトロウイルス由来となっている。
感想
ウイルス自体の説明や軽くどんな種類があるか、複製の仕組み、ワクチンとのつながりがざっと分かればいいかと思っていたけど、進化とレトロウイルスの関係のところが一番面白かった。
あとは生殖細胞への感染がその後の子孫に影響を及ぼすという点も全然知らなかった。
mRNAワクチンの衝撃--コロナ制圧と医療の未来
どんな本か
mRNAワクチン自体の解説本...ではなく、ワクチンを世に出すためどのようなプロセスがあったかの本
なぜ読んだか
新しい薬が世に出るまでに5~10年かかると聞いていたので、今更ながらなぜここまで早くコロナワクチンが世に出ることに成功したのか知りたくなったため。
期待すること
ワクチンが承認されるまでのスピードの謎を知りたい。
なぜ他の薬は遅く、コロナワクチンは早かったのだろうか。
緊急承認みたいな制度があったとか?
解答
免疫系だったりワクチンについては別の本で勉強することにしてここでは承認スピードについて主に追うことにしたい。
--ワクチン開発までの流れ--
立役者となったのはビオンテック社、
創業者はウール・シャヒンとエズレム・テュレジ
元からエイズやインフルエンザワクチンの研究をしていた会社。
mRNAワクチンのノウハウは元から研究してきたので保有済み。
あとはコロナウイルスの知識をつけて、構造を理解し、どんな遺伝情報を含ませるかが大変だった。
従来のワクチン
->ターゲットとなるウイルスに似たものか、ターゲットウイルスの弱毒化バージョンを
患者に投与
時間がかかるし、細心の注意を払って作成しなければならない
何に細心の注意を払うかが書かれていなかったが、似たウイルスの選定や、弱毒化をどこまでさせるか、人体に危険はないのかまでの考慮...ということだと思う
mRNAワクチン
->広く入手可能な抗原を使ってmRNAに遺伝情報を含ませるだけ
生成されるのはウイルスの小さな一部分だけ
簡単なのはわかったが、安全性についてはよくわからなかった、小さな一部分だけだから安全ということなのかな
--実際にワクチン開発--
過去のワクチン開発では時間がかかりすぎて、ワクチンが出来上がるころにはもう収束してしまっていた。
金銭的な面だったり、治験のステップ3、人への治験を行うにあたってビオンテック社だけでは厳しいため、
ファイザーと復星医薬との提携で完成したワクチンを世界へ流通させる体制や、
人体試験のための資金やコネを獲得することに成功。
--ワクチンが作られる工程--
1. ワクチン自体の作成(数か月)
2. 動物実験(半年ほど、ただし結果が得られなかったら1に戻る)
3. 人への治験許可を規制当局へ申請し、第一、第二、第三相に分けて治験(過去の例では四年以上、ここでだめでも1に戻る)
第一相、ごく少量の摂取量から徐々に摂取量を増やし、で数十人が対象
第二相 数千人
第三相 人種も出身も幅広く数万人
--過去のワクチン開発の例から学ぶ--
RSウイルスワクチンの例としてはワクチンが逆にRSウイルスを助け重篤な症状を引き起こしてしまう事件があった
SARSウイルスでも似たような事例があった(こちらは人体投与までは至ってないが)
ワクチンが逆にウイルスを助け重篤な症状を引き起こすことをADEという
上記は対象となるウイルスの抗体をうまく作れなかったのが原因だった
なので今回、コロナウイルスの主な攻撃方法であるスパイクタンパク質を完璧に再現できさえすれば抗体がうまく作られ、効果なしどころか重篤な症状を引き起こすといったことを防ぐことができる
ただ、mRNAに送り込む遺伝情報がうまい物でも誤ったコピーができる可能性もある
なのでどうにかして安定して同じ構造のスパイクタンパク質を生成したい...
これにはバーニーグレアムが立役者で、HIV、RSウイルスを研究していて、
タンパク質の構造安定化を成功させている人物
ワクチンを作るにあたって対象タンパク質の全体を再現するか、一部分を再現するかの方法があって、ほかの会社は全体再現の方法をとっていた
一部分のメリットは全体を完璧に再現しないでよいので作成難易度が下がるし、
一部分だと作成された抗体の結合対象も小さくなるということなので、ADEを引き起こす確率も下がる
全体再現のメリットは変異株が出た際にも有効性が維持される可能性の高さ
ビオンテック社は両方試すことにした。
--時間短縮のノウハウ--(今回の疑問の主題)
[ステージ1~ステージ3全体の短縮]
同時にワクチンを複数作ることによって一個失敗したらまたはじめからということを避けている。
これにより複数のワクチン候補がステージ1~ステージ3を並列実行される。
[ステージ2の短縮]
ステージ2の動物への毒性試験は半年ほどかかる見込みだが、数週間に短縮させたい
これにはエボラワクチンのパンデミック下での報告書が参考になる
エボラワクチンの品質・安全性・有効性に関する指針
上記では、
公衆衛生上の緊急事態時には製薬会社が毒性試験の中間報告書をまとめた段階で、
人への第一相試験に進むことを規制当局は認めるべきと提言されている
動物の毒性試験では、
前半
ワクチンを投与し、ラットの様子や、投与直後の血液検査をし害がないか確認
後半
ラットを解剖し、臓器を顕微鏡で精査
この後半に時間がかかり、報告書に従うならば前半部分のみ終えた段階で、
同時に第一相試験に進めて大幅な時間短縮が可能になる
さらに遅延要因として、ワクチンの毒性試験のときは、人間に打つ回数より一回多く打たなくてはいけない、ワクチンの間隔は人間と一緒ということがある。
これは時間がかかってしまう、そこで時間間隔を縮めて打つことにした(3週間間隔のところを一週間)
理屈としては間隔を縮めて負担を上げても有害事象がなければOKということだった
これは本当にそうなのか?ワクチンの間隔がどう決定されるかわからないためちょっと判断できない
ということで緊急時に限ったちょっと強引な方法をとっていたようだ
まぁここは速度と安全性のトレードオフで安全性が許容できるレベルまで速度を上げているということだろう
[ステージ3の短縮]
通常、第一相試験はグループごとに薬剤の量を徐々に増やしていくので、数か月かかる
これを高速化するために、
過去のmRNAがんワクチンのデータにおいて有害事象は24時間以内に発生したことから、グループ間の投与を1~2日後にすることで時間を短縮できた
(でもこれってmRNAワクチンというだけで同列に考えていいのか?)