問題解決のための読書ログ

読書でいろいろ学んだり問題解決していきます。

京大 おどろきのウイルス学講義

どんな本か

ウイルスについて学部一年~二年生にむけて平易な言葉で解説した本

 

なぜ読んだか

前回コロナワクチンについての本を読んだ。

ウイルスについては全然知識がなかったので、ウイルス自体の変異だったり、ウイルスが人体に侵入する仕組みを知るため。

 

第一章 「次」に来る可能性がある、動物界のウイルス

主に動物由来のウイルスの話

 

人に対して感染するウイルスよりも動物に対して感染するウイルスの方がはるかに数が多い。

 

新興ウイルス感染症が起こるときは、もともとの動物では問題なかったのに、

人に感染すると強毒性を発揮することが多い。

 

現在は動物のみに有毒なウイルスだが、人に感染する変異をする恐れがある例が多数紹介されている。(ウォーラルウイルス、ブルータングウイルス等)

 

第二章 人はウイルスとともに暮らしている

毎年、数個のヒト新興ウイルス感染症が確認されている

コロナウイルスは規模が大きかったからここまで話題になったが、話題になっていないだけで数個は年に現れているということ

 

感染症が広がる原因は

1.都市化

2.交通の発達

3.戦争

とある、人がどれだけ容易に流動できるかが鍵

 

ここまで危険で怖いウイルス、ウイルスの負の面ばかりが紹介されていたが正の面も紹介されている。

例として、鶏にがんを引き起こすマレック病を予防するヘルペスウイルスが紹介されている

人のガンに対しても同様にできないか研究が行われていて、腫瘍溶解性ウイルスと呼ばれている。

また、ウイルスそのものではなく、ウイルスが放出するマイクロRNAに注目する研究もある

 

一生から続く主張として、表立って感染するウイルスだけではなく、危険なウイルス、有用なウイルスもあるのだから予算を増やしてもっと目を向けるべきとしている。

 

第三章 そもそもウイルスとは何?

 

--ウイルスとは--

細胞の役割はタンパク質の合成で機構は以下となっている。

RNAはDNAの一部分のコピー、ただしT(チミン)の代わりにU(ウラシル)が使われている

 

細胞内で以下が行われる

DNA                RNA             タンパク質

        ->(転写)            ->(翻訳、リボソームを使用)

        <-(逆転写)

 

ウイルスとは大きく分けると二種類

タンパク質の殻の中にDNAが入っているやつ(DNA型)とRNAが入っているやつ(RNA型)がある

そのタンパク質をエンベロープと呼ばれる脂質で覆うタイプもある

ウイルスはリボソームがないため増殖ができない、なので生物の細胞を使って増殖する

 

増殖する手順としてはRNA型ウイルスの例だと

細胞に侵入->ウイルスのRNAを使ってリボソームにウイルスRNAに書かれているタンパク質を作らせる->タンパク質の中のRNA複製酵素によりウイルス増殖

 

DNAとRNAというざっくり2分類したが詳しく分けると7分類となる。

通常DNAは二本鎖、RNAは一本鎖だが、ウイルスの場合DNAなのに一本、RNAなのに日本の場合がある、

また逆転写を行う場合があること、

RNAの鎖にはプラス鎖、マイナス鎖があること(マイナス鎖は一旦プラスに戻さないとリボソームを使用できない)を考えて、

 

1. 2本鎖DNA

2. 1本鎖DNA

3. 2本鎖RNA

4. 1本鎖RNA プラス鎖             <---新型コロナウイルスはここ

5. 1本鎖RNA マイナス鎖

6. 1本鎖RNA プラス鎖 逆転写  <---レトロウイルスと呼ばれる

7. 2本鎖DNA 逆転写

 

 

--ウイルスの変異について--

ウイルスの組み換えによってウイルスが変異することがある。

組み換えとはある動物の細胞に二つの別種のウイルスが同時に感染したときに、

ウイルス複製の際二つのウイルスが混ざること

例えば、ネコがネココロナウイルス、イヌコロナウイルスに同時に感染したとして、

ネココロナウイルスにイヌコロナウイルスが混じるといった具合

 

コロナウイルスでも変異があるが、これは組み換えによるものではなく、ウイルスがランダムに配列を変異させたものである

ランダムといえる理由は配列のほんの一部、数か所が変化しただけであるため、組み換えはもっとごっそり変化する

 

インフルエンザウイルスは構造的にコロナウイルスより変異しやすい

なぜ変異しやすいかというと、中にあるRNAコロナウイルスの場合は一本にしっかりつながっているが、インフルエンザウイルスの場合は7~8本に分かれている(一本鎖が7~8分節されている)

 

...と記載されていたが、これってなんで変異しやすいといえるんだろう、分節になっているからRNAの複製中に乗り換えがより起こりやすいとか?

 

レトロウイルスもわざと組み換えが起こりやすい構造になっている

レトロウイルスは1本鎖RNA プラス鎖ではあるんだけど、プラス鎖を中に二本持っている

レトロウイルスの種類A,Bがあり、同時感染したとして、ウイルスが複製されるときに

A1,A2,B1,B2と四本できる、一個のレトロウイルスが二本必要なので1/2でA,B両方のRNAを持ったレトロウイルスが生まれることになる

 

第四章 ウイルスとワクチン

 

--ワクチンの種類--

ワクチンは大きく分けて二種類

生ワクチン - 弱毒型の生きたウイルスを使う

抗体(液性免疫)と細胞性免疫を誘導でき、一回接種で十分

ただ、復帰変異といって強毒型に戻る危険性があるので人には使いづらい

 

不活化ワクチン - 死んだウイルス全体、もしくは一部を使う

抗体は誘導できるが細胞性免疫はあまり誘導できない、二回以上接種

 

細胞性免疫とはT細胞で感染済みの細胞を攻撃すること

抗体は細胞に侵入前にウイルスを攻撃できる

 

この二種類のほかにも核酸ワクチンが存在して、DNAワクチンとmRNAワクチンがある。

DNAワクチンには大きな欠点があり、人のDNAにワクチンのDNAが組み込まれてしまうといった問題がある。

その欠点を補うように生まれたのがmRNAワクチン

この本には書かれていないが、mRNAの衝撃という本であった工夫として、通常外部からきたmRNAは自然免疫で排除されるが"ステルス化"することで無事リボソームまで運ばれるようにしてある。

 

--ワクチンのリスクについて--

Aというウイルスに対する良い抗体が、Aによく似たBには悪い抗体になって重篤な症状を引き起こすことがある

例としてデングウイルスがあり、

1~4の型があるが、1型に対する良い抗体は他の型にとって悪い抗体になってしまう

 

第五章 生物の遺伝子を書き替えてしまう「レトロウイルス」

ここから最終章まではレトロウイルスの話

 

--レトロウイルスとは--

レトロウイルスはRNA->DNAを可能にする酵素を中に持っている、レトロとは「逆の」という意味

レトロウイルスの特徴はRNA->DNAとして感染した細胞のDNAに自身のDNAを加えることにある(ただしDNAを書き替えるウイルス自体は他にもあるので注意)

変化したDNAによってレトロウイルスは繁殖していく。

 

内在性と外在性レトロウイルスがあり、親世代の生殖細胞に感染して、子世代のすべての細胞に伝わったレトロウイルスを内在性という

他は外在性

 

ただ通常生殖細胞はレトロウイルスに対して強固で感染することはないが、6550万年前,恐竜が絶滅したときに地球環境にするため、レトロウイルスを積極的に取り入れていたらしい

 

 

--DNAのコピー&ペーストを行うものたち--

レトロウイルス、DNA中のLINE(長い反復配列),SINE(短い反復配列)

これらは逆転写酵素の配列を持ち、レトロトランスポジションといわれ、

コピー&ペーストなので反復配列がどんどんDNA中に増えていくことになる

この増えた反復配列をレトロトランスポゾンという

 

反対にトランスポジションも存在し、こっちはカット&ペーストなので、

配列は増えることがない、移動する部分の配列をトランスポゾンという

 

これらはともにDNAを作り変えるので進化に有用な働きとなっている

 

--ウイルスの生存戦略--

としていかに早く多様性を獲得するために変異するかという点が重要になってくる

そのためにインフルエンザウイルスみたいに7,8分節になったり、レトロウイルスみたいにRNAを二本含んで他のウイルスと遺伝子をごちゃまぜに出来るようにしている

 

第六章 ヒトの胎盤はレトロウイルスによって生まれた

 

--レトロウイルスと胎盤--

母親の免疫機構がが胎児を異物として攻撃しないのは何故だろうか。

胎盤形成の際に使われるシンシチン2というタンパク質があり、これがレトロウイルス由来であることが判明している。

このシンシチン2が免疫抑制性の配列を持っていて、胎児が母親から攻撃されないように免疫抑制をしている。

 

--レトロウイルスと細胞初期化--

ips細胞と言えば分化済みの細胞を初期化して好きな細胞に分化できるといわれているが、実は完全な初期化ではない(ただし医療目的では問題ない)

 

完全初期(最初の一つの細胞~二細胞まで) -> 4細胞~分化前まで(es細胞、ips細胞)

なので完全初期の細胞ではない

完全初期とそれ以降では発言するRNAが違い、完全初期の段階のRNAはとある内在性レトロウイルスの配列であることがわかっている

 

第七章 生物の進化に貢献してきたレトロウイルス

 

生物の進化のためにはゲノムサイズを増やすことが肝要となってくる。

鍵となるのは第五章でみたレトロトランスポゾンで、この力でゲノムサイズは格段に増えることとなった。

 

具体的にどんな進化に使われたかを皮膚の例で見ていく。

    魚類       ->           両生類            ->              単弓類 -> 哺乳類

多層上皮         角化重層扁平上皮           さらに強固な角質層

                         陸に上がるため、                陸で過ごす時間

                      乾燥に耐えるように              が増えたため

この進化の過程で遺伝子の変化が起こったと考えられるが、SASPaseという酵素が発言するようになり天然保湿成分を獲得できるようになった。

このSASPaseがレトロウイルス由来となっている。

 

感想

ウイルス自体の説明や軽くどんな種類があるか、複製の仕組み、ワクチンとのつながりがざっと分かればいいかと思っていたけど、進化とレトロウイルスの関係のところが一番面白かった。

あとは生殖細胞への感染がその後の子孫に影響を及ぼすという点も全然知らなかった。